30年前の衛星契約の開始時を振り返ってみても、衛星放送をスクランブル化しない根拠が見つからなかった

NHKの衛星放送の問題
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はじめに

こんにちは、草津会計士blogです。

皆さんもご存じの通り、NHKとの契約は主に「地上契約」と「衛星契約」の二つがあります。そして、衛星放送を受信することのできる受信設備を設置している場合には「衛星契約」を結ぶことになっています。

この衛星契約が開始されたのは、今からおよそ30年前のことです。平成元年に国会で受信料の改訂についての承認がされたことにより、NHKは衛星放送を受信できる人と衛星契約を結んで、追加的な受信料を徴収することができるようになりました。

そして現在、「NHKから国民を守る党」が公約として掲げている「スクランブル放送の実施」について国民の関心が高まっています。一方でNHKは、公共放送の理念と矛盾するとしてスクランブル放送の実施に関しては否定的な見解を示しています。確かに、地上放送に関しては放送法が始まった当時の考え方を引き継いでおり、スクランブル化をする場合は放送法の根幹から見直すことが必要です。

しかし、この理論は衛星放送に関しても通用するのでしょうか。今回は、衛星契約が始まった30年前に遡って、なぜ衛星契約が新設されたのかを調べてみました。

衛星放送の受信料を別料金とする根拠

そもそも、地上契約と衛星契約とを別料金にすることを決めた時に、どのような法律や規定改正が行われたのでしょうか。別の言い方をすれば、衛星放送を見れる人から別料金を取るという根拠はどこにあるのでしょうか。

実は、放送法に「衛星放送と地上放送は別料金とする」という条文があるわけではありません。放送法で定められているのは、次の条文です。

放送法第六十四条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。(略)

一方で、NHKと契約者の間の契約である受信規約の中で、次のように定められています。

2 受信機(家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信用受信機等で、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備をいう。以下同じ。)のうち、地上系によるテレビジョン放送のみを受信できるテレビジョン受信機を設置(使用できる状態におくことをいう。以下同じ。)した者は地上契約、衛星系によるテレビジョン放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者は衛星契約を締結しなければならない。(略)

NHK受信料の窓口-日本放送協会放送受信規約

この受信規約自体は総務大臣の認可があれば変えることができますが、受信料の月額に関しては収支予算の一部として国会の承認が必要です(放送法第70条)。

つまり、衛星放送を見れる人から別料金を取れるようになったのは、衛星契約の受信料を新設することを国会が承認し、それをもとに受信規約が改訂されたからということになります。

衛星契約新設時の国会議事録の一部抜粋

それでは、衛星放送の受信料が新設されたときに、国会ではどのような議論がされていたのかを見てみましょう。平成元年の第114回通常国会で、この決議に関連するものは以下の通りです。

衆議院 第114回国会参議院第114回国会
衆議院 逓信委員会
第2号
参議院 逓信委員会
第3号
衆議院 本会議 ※決議のみ
第7号
参議院 本会議 ※決議のみ
第8号

今回は衆議院逓信委員会第2号の一部を抜粋して取り上げます。逓信委員の穂積良行議員からの質問と、それに対する郵政省の片岡清一大臣、NHKの島桂次副会長の回答です。

穂積委員 
 NHK予算に対する国民の関心は、やはりまず受信料はどうなるのかということだと思います。先ほど予算についての説明、補足説明等がありましたが、受信料が四月以降どうなるかということについては、きょうの質疑で国民の皆様にもう少しはっきり説明していただいた方がいいと思うのです。
 その中で、一つは衛星放送について八月から衛星料金を徴収することになっていることに関連しまして、まずその衛星放送というのは、当初これが計画され実施に移されたのは難視聴解消ということが最大の目的だったと思うわけであります。それがその後実際に衛星放送が普及し、百三十万の視聴者が今見ている。そういう状況になってこれからの放送の多様化あるいは内容の充実ということを考えた場合に、その難視聴の解消にとどまらないNHKとしての意欲も出てきていると思うわけであります。そういう中で今回衛星料金を設定することとする際に、NHKの衛星放送についてのこれからの考え方、また監督官庁としての郵政省の見解をまずただしておきたいと思うわけであります。

片岡国務大臣 我が国の放送衛星につきましては、NHKのテレビジョン放送の、今お話しのように難視聴解消を目的として最初開発せられたものでありますが、昭和六十二年六月、BS2によりますところの放送の免許方針を修正いたしまして、高度化、多様化をする放送需要に対処して、衛星放送の普及促進を図るという必要があることから、NHKの総合また教育番組を混合編成して行う放送に加えて、衛星独自の番組の放送を行うものといたした次第でございます。ところがまた、昨年十月、電波監理審議会の答申を得まして策定いたしましたところの放送普及基本計画におきましては、NHKの行う衛星放送について、BS2の段階では、難視聴解消を目的とする放送及び衛星系による放送の普及に資するための特性を生かして行う総合放送が全国各地においてもあまねく受信できるようにしたい、こういうこと、また、平成二年度に打ち上げます予定のBS3の段階では、このBS2の段階における放送を引き継ぐとともに、多様化いたしますところの放送需要にこたえる放送が全国各地域においてあまねく受信できますように、そういう目的を明確にいたした次第でございまして、今後その方針に従って衛星放送をやっていきたいというふうに考えておる次第でございます。

島参考人 衛星放送の件につきましては、ただいま郵政大臣の御答弁のとおりでございます。
 NHKといたしましては、先生御指摘のように、百三十万ぐらい普及してくる、こうなりますと、ハードだけではなくてソフトの面にかなりの費用がこれからかかってくるわけでございます。これを全く衛星放送を見ておられない地上波の方方の聴視料の負担で賄うにはそろそろ限界が来た。したがって、やはり衛星放送を御利用いただく方からは特別な料金をいただきませんと、地上波だけを見ておられる方からの不満が非常に出てまいりますので、もうそろそろ、私は、一年半ばかり前郵政大臣が説明されたように、独自のサービスをして百万以上この衛星を見る方がふえた段階では新しい料金をいただかなければいかぬということは、既に川原前会長時代から私ども申し上げてきたわけでございます。
 したがって、今回八月から料金をいただくという趣旨は、やはりその不公平感をなくすということ、しかし、我々は新しく料金をもらう以上は、先ほど来申し上げているように、これはそれに値する放送内容を充実させて衛星放送の発展に資したいというのが当面NHKの立場でございます。

おわりに

まとめると、衛星契約を新設して現在のような二本立ての料金体系にした理由はこのようになります。

  • 衛星放送の目的     :難視聴対策 & 多様化する放送需要にこたえるため
  • 衛星契約を新設する理由 :地上放送しか見ていない視聴者の不公平感をなくすため

このような趣旨からすれば、衛星放送を見る意思がないのにもかかわらず、形式上条件にあてはまるからといって衛星契約を締結しなければならないというのはおかしな話ですよね。また、地上放送と衛星放送が別料金なのは放送法で定められているわけではなく、NHKが受信規約の改訂によって決めたことです。

このように放送法の趣旨や衛星放送の性格から考えてみても、衛星放送をスクランブル化しない根拠は何もないのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ、受動受信問題についてまとめた以下の記事もお読み頂けると嬉しいです。

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