どうして受信料に消費税がかかるのか。しっかり整理したところ【支払う法的根拠はない】ことが分かりました

NHKの受信料の問題
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はじめに

こんにちは、草津会計士blog(@kkblog731)です。

いきなりですが、皆さんがお支払いしているNHKの受信料の中には消費税が含まれていることはご存じかと思います。そしてこの消費税は軽減税率の対象ではないため、2019年10月からは支払った受信料のうちのおよそ1割が消費税となります(※)。つまり、「受信料にかかる消費税」を撤廃することができれば、受信料による家計の負担をおよそ1割減らすことができるということになります。

普通に考えればそんなことは不可能です。しかし、受信料に限って言えばそれが可能かもしれません。

どういうことかというと、法律をしっかり見てみると「そもそも受信料に消費税をかけるべきではないのではないか?」という根本的な疑問が出てくるのです。また、これにはNHK会長の発言として最近話題になった「ある言葉」も関係しています。

少し長いですが、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。

(※「受信料が軽減税率の対象になるのか」、「消費税の増税により受信料は値上がりするのか」ということを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。 )

NHK受信料の現在の月額、過去の推移、今後の改訂予定は?【2019年8月時点】
はじめにこんにちは、草津会計士blogです。この記事は、NHKの受信料の月額料金について【2019年8月】時点の情報に関するものです。具体的には、「現在の受信料はいくらなのか」、「過去に受信料はどのように推移してきたのか」、「今後...

消費税の課税対象とは?

まず前提として、現在私たちが支払っている受信料には消費税がかかっています。

それでは、「受信料に消費税がかかる」という法律上の根拠はどこにあるのでしょうか?

消費税について規定した法律は「消費税法」です。

そして消費税法は、消費税の課税対象をこのように規定しています。

消費税法

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する

といっても、これを読んで「なるほど」と思う方はごく一部だと思いますので、できるだけ分かりやすく解説します。

まず、先ほどの条文を一つにまとめます。

  • 国内において事業者が行った「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供」には、消費税を課する

次に、せっかくまとめたのですが一回分解します。

  • 国内において
  • 事業者が行った事業として
  • 対価を得て行われる
  • 資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供 
  • には、消費税を課する

最後に、条件を規定した部分を整理して番号を振ってみます。

  1. 国内において行われるものであること
  2. 事業者が事業として行う取引であること
  3. 対価を得て行う取引であること
  4. 資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供に係る取引であること

つまり、消費税の対象となるのは上の4つの条件を満たした取引ということになります。

それでもまだ難しい書き方がされているので、普通に読んでも分かりません。

というわけで、次からはNHKの受信契約に当てはめて考えてみましょう。

NHKの受信料は消費税の対象か?

さきほどの消費税の対象となる4つの条件に、「NHKの放送」が当てはまるかを確認していきましょう。

1.国内において行われるものであること

これはとても分かりやすいですね。NHKの受信契約の対象である国内放送は「国内」で行われていますので、当然この条件には当てはまります

2.事業者が事業として行う取引であること

これは正直、意味不明ですよね。ただ安心してください、 国税庁がこのように説明してくれています。

「事業者」とは、個人事業者(事業を行う個人)と法人をいいます。
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいいます。
したがって、個人の中古車販売業者が行う中古車の売買は事業として行う売買になりますが、給与所得者がたまたま自分の自家用車を手放す行為などは、事業として行う売買とはなりません。

なお、法人は事業を行う目的をもって設立されたものですから、その活動はすべて事業となります。

No.6105 課税の対象|国税庁

つまり、「法人」の場合は自動的にこの条件に当てはまるということです。NHKは「個人」ではなく「法人」なので、当然この条件には当てはまります

3.対価を得て行う取引であること

ここが一番大事なところですので皆さんも一緒に考えてみてください。

果たして、NHKの受信契約は「対価を得て」行う取引なのでしょうか?

日頃NHK関連のニュースに興味を持たれている方であれば、ここで「あれっ?」と思われたでしょう。

「受信料は負担金。放送の対価ではない」上田NHK会長、N国党主張に初見解 – 毎日新聞

上のニュース記事の通り、NHKの上田会長が「受信料は放送の対価ではない」と発言しているのです。

この見解が正しいかどうかは、議論が分かれるところです。(ちなみに当ブログは、「放送法の枠組みを超えて実質判断をすれば、受信料のうち地上放送分は負担金、衛星放送分は放送の対価である」という見解です。)

しかし、ここで大事なのは、政府もNHKも「受信料は負担金であり、放送の対価ではない」という立場に立っているということです。

そしてこの立場に立てば、「受信料は放送の対価ではない」ため、「対価を得て」という条件に当てはまらず、消費税はかからないということになるはずです。

しかし、現実は消費税がかかっているいうことは、「対価を得て」という条件に当てはまっている、つまり「受信料は放送の対価である」ことになります。

もうわけがわかりませんよね。

これについては、次の章で詳しく解説します。

4.資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供等に係る取引であること

これは、上の話とセットで考えることができるので、ここでは省略します。

なぜ受信料に消費税が課されるのか?

それではなぜ、「放送の対価ではない受信料」には消費税がかかっているのでしょうか。

これを簡単に答えると、「法令がそう定めているから」です。

いやいや!法律はそうなってないってさっき言ったばっかじゃん!」

そう言いたい気持ちは分かります。

それでは言い換えると、「法律ではなく政令でそう定めているから」 です。

消費税法(法律)に付随する形で消費税法施行令(政令)というものがあります。これは国会を通すことなく内閣が制定できるものです。

そして、その施行令ではこのように規定されています。

消費税法施行令

第二条 法第二条第一項第八号に規定する対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものは、次に掲げるものとする。

(中略)

五 不特定かつ多数の者によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信で、法律により受信者がその締結を行わなければならないこととされている契約に基づき受信料を徴収して行われるもの

不特定かつ多数の者によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信で、法律により信者がその締結を行わなければならないこととされている契約に基づき受信料を徴収して行われるもの」・・・?

もうお分かりですよね。もちろんこれは「NHKの放送」のことを指していて、それ以外のものは存在しません(※)。

まり、「NHKの受信料が対価なのか」という議論に関係なく、消費税法施行令においてNHKの放送」は「対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為」だと規定しているのです。

 

(※NHKとの契約が「法律により受信者がその締結を行わなければならないこととされている契約」といえるかどうかは一考の余地はあるかもしれません。なぜなら放送法64条1項の契約義務は「放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に対するものあり「受信者」に対するものではないからです。もしかすると、立法担当者は「受信者」としておくことで「対価性のあるもの」と含みを持たせ、この規定の正当性を残しておきたかったのかもしれません。)

もう一度、NHKの受信料は消費税の対象か

それでは、ここまでを踏まえた上で、あらためて受信料が消費税の対象になる4つの条件に当てはまるのかを考えてみましょう。

  1. 国内において行われるものであること
  2. 事業者が事業として行う取引であること
  3. 対価を得て行う取引であること
  4. 資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供に係る取引であること

このうち3と4は、先ほど見たように消費税施行令により自動的に条件に当てはまります。

そうなると、【法人】である【NHKの放送【国内】で行われている限り、受信料は消費税の対象になるということになります

なぜこのような規定が設けられているのか

NHKと直接関係しない消費税に関する法令が、受信料についてこのような特別の定めをおいているのは異例ともいえると思います。実際に、消費税法の成立にあたってはこの点がかなり問題視されていました。これについては、今回は長くなりましたので別の機会に回すことにしますが、一部だけ簡単にご紹介しておきます。ご興味のある方は、ぜひリンク先から全文をご覧ください。

及川一夫君

それは大蔵省の都合だけで考えているんじゃないですか。税を取るというだけの立場で考えているんじゃないですか。そうじゃなしに、受信料の性格ですよ。大変な論議があるんですよ。労働の対価なのか、サービスの対価なのか、そうじゃない、対価でないということだけは概ねはっきりしているんです、意識としてですよ。それが正しいかどうかはこれからも論議をしていかなければならぬ問題。
そして、第三者による答申書、第三者で集まっていろんな論議をして、受信料というものをどういうふうに一体定義づけるんだという議論が、三十九年の九月八日に答申が出されていますし、それから五十七年の一月に長期ビジョン審議会でも出しているわけですよ。そういう中では、あなたがおっしゃるように対価なんという意見もあるけれども、そうじゃない、これは基本的にはNHKの業務運営を支えるための視聴者による費用の分担と考えるのが素直な性格づけだというふうにこれはなっているんですよ。分担なんですよ。対価じゃないんですよ。対価じゃなかったら消費になりますか。

(出典:114回国会参議院逓信委員会平成1年3月28日 第3号

お読みになると分かるように、これは「NHKの問題」ではなく「政府の問題」といえます。NHKの立場からすれば「受信料は負担金であり消費税の対象ではない」という方が望ましいですし、それが当然だと考えていたはずです。NHKの所管となる郵政省(当時)もおそらく同じ立場だったのでしょう。しかし消費税法の所管である大蔵省(当時)が政策上の観点から、ある意味強引に受信料を課税の対象にしてしまったというように見受けられます。

おわりに

今回は「NHKの受信料は消費税の対象とすべきか」ということを考察しました。

結論はこのようになります。

  • 消費税法によれば、「対価ではない」受信料は消費税の課税対象ではないと判断できる
  • しかし、内閣の制定した施行令によって事実上「NHKの受信料は消費税の対象である」と書かれているため、受信料は消費税の対象である

ここから言えることは、現在の放送法の枠組みの中で考えれば「負担金」である受信料に消費税が課税されるのは適法とはいえず、不課税であるということです。

また、放送法の枠組みを超えて実質判断をした場合には、受信料のうち地上放送の「負担金」相当分は不課税、衛星放送の「視聴料」相当分は課税対象とするのがふさわしいというのが当ブログの見解です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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