今から70年前に【NHKの制度上の問題】を見通していた人物がいました

NHKの制度改正を考える
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はじめに

こんにちは、草津会計士blog(@kkblog731)です。

今回は、現在まで持続しているNHKの問題を、今から70年も前から見通していた人物をご紹介します。

1949年(昭和25年)、放送法を含めた電波三法を制定するにあたって、国民からの意見を聴く公聴会が開かれました。その公聴会で早稲田大学の吉村正教授(当時)が意見を述べられているのですが、非常に明晰な考えをまとめています。

70年経った今読んでみても、非常に勉強になるものでしたので、議事録から抜粋した形で皆さんにご紹介したいと思います。なお、70年前といえば、まだ戦後まもなく、放送といえばラジオが中心の時代でした。そのことを頭に置いて読んでみると、あらためて色々なことに気づかされます。

公聴会議事録の抜粋

○吉村公述人 私は早稲田大学教授吉村正でございます。先ほどからいろいろな方がいろいろな角度から問題を論ぜられまして、ほとんどあらゆる問題にわたつているようであります。それで私は組織及び行政監督というようなものに関する一般的原則からいたしまして、この法案についての若干の所感を申し上げて、あわせて広い教育の立場からいたしまして、要望をいたしたいと考えている次第でございます。
この法案はおよそ三つから成立つているようであります。最初に総則がありまして、次に日本放送協会のことがあつて、次に一般放送事業者のことがあるようでありますが、まず第一に日本放送協会のことについて所感を申し上げたいと思います。結論的に申し上げます。日本放送協会の規則の中で、経営委員会に関する点につきまして、私は率直に申しまして、これでは経営委員会の自主性が非常に少いという感じを深くいたしているのであります。この法案にありますように、経営委員は総理大臣が国会の同意を得て任命するのでありますが、この経営委員は、総理大臣が職務上の、義務違反をやつたと認めた場合におきましては、両院の同意を得て罷免することができることになつております。これは十六條より二十條でございますが、どうもこういうふうでは経営委員会の自主性というものが確保されておらぬ。こういうふうに考えるのであります。議会は御承知の通り多数決主義でやるのでありますから、これではもちろん委員に罷免のとき、弁解の機会は與えられますけれども、しかし議院内閣制のもとにおきましては、大体多数党の党首が総理になるのが普通でありますから、従いまして多数党が認めればやめざるを得ないということになるのであろうと思います。従いましてもう少しこの点について、経営委員会なるものに自主性を保たせる必要があるのではないかと考えるのであります。これが組織の方面であります。
それから職務の点についてでございますが、経営委員会は日本放送協会の経営方針を立て、それを運営するところの指導統制を任ずるものでありますが、その收支の決算とか、あるいは事業計画とか、資金計画とかいうような、すべての点につきまして、これを電波監理委員会に報告し、電波監理委員会はそれに意見を付しまして内閣に出し、内閣が国会に提出して同意を求めるということになつております。これでは経営委員会に究極の経営の権限がまかされていないように思うのであります。従いましてその責任の所在があいまいになるように私は思うのであります。結局は全部国会まで来るというように考えられるのでありますが、これは経営組織一般の原則上からいいまして、また公共企業体を特別に設けます意味から行きまして、どうも賛成しかねるところであります。

(中略)
それから経営委員会というものを強化しなければいけないと考える。そうしなければ自主性が保てないというのが第一点であります。もう一つの理由は、公共企業体という意味から、私はこういうことを申し上げたいと思うのであります。公共企業体は御承知のように、二十世紀になつてからの大体発達に属するわけでございますが、これは一面において公的な機関による経営ということに対しまして、私的な機関による経営の長所というものを取入れる。つまり公共性を持つた事業をすべて政府がみずからやる。政府機関によつてやるということになりますと、官僚の経営になりまして、能率と経済というものが低下するのが大体の原則である。また従いまして公共性を持つたものであるから、單なる私的団体によつて行うことは適しない。しかしながら政府そのものが行つたのでは、官僚主義に流れるおそれがある。そこにおきまして欧米諸国におきまして、公共企業体という経営の方式が考えられたのであろうと思いますが、はたしてそうであるといたしますならば、この日本放送協会を公共企業体として経営される以上は、できるだけ政府からの官僚の統制から独立いたしまして、自主性を持つてその経営に当る。そうしてそれによつて私的企業、すなわち株式会社等の経営の長所である経済と能率をあげる。そうして第一條の目的に示されてありまするような目的をすみやかに達成する。こういうふうに組織されなければならないと思うのであります。ところがこの法案を見ますと、どうも経営委員会の力が非常に弱くて、何でもかんでも全部国会に行かなければものはきまらないというように受取られるのでありまして、この点は公共企業体というものによつて日本放送協会を経営される意味からいいまして、もつと経営委員会の自主性を確立してもらうということが望ましいと思います。
また議会そのものから申しましても、日本放送協会の收支決算や、事業計画、資金計画に至るまで、一々国会に持つて来られましても、私はおそらく皆さんの方で十分な審議をされる余裕はないと思う。そうして責任だけを負わされるということになりますならば、皆さんとしてもとうてい耐えられないことであろうと推察いたしまするし、また国民といたしましても、国会を見てみますと、いろいろ重要な法案がたくさんありまして、前の議会のときも審議未了の法案が相当あるように考えておるのであります。こんなこまかい仕事まで国会に持つて参りまして、国民生活に至大の関係を有する根本問題を決する重大なる法案が、審議未了に終るというのは、国会の職責を全うされるということから参りましても、決して望ましいことではない。かように考えるのであります。いずれの方面から見ましても、こういうような複雑な、そうして責任の所在がどこへ行くかわからぬというような監督の規定を設けられるということは、どうも賛成いたしかねるのであります。
(中略)
以上簡單でございますが、私の所見を申し上げまして、公述を終ります。(拍手)

おわりに

いかがだったでしょうか。

このように、吉村氏は放送法の問題として経営委員会の自主性が弱いことを挙げられています。そしてそのことから、具体的に次のような点を指摘しています。

  • 経営委員を多数派の政党が任命・罷免することができる
  • 重要なことは全て国会を通すことになっており、経営委員の責任があいまい。しかし、国会ではそのような細かな点までいちいち審議する余裕はない
  • 経営委員会の自主性が弱いと官僚の経営になり、効率的な経営ができない

少しかみ砕いた言い方をすると、NHKが「政府の言いなり」になり、「無責任な経営」を行い、「受信料の無駄遣い」をしてしまうということになります。これは、まさに今のNHKで批判されていることではないでしょうか。

今回は一部のみ抜粋しましたが、余裕のある方はぜひ全文を読んでみると面白いと思います。全文は、国会会議録検索システム 衆議院第7回国会 電気通信委員会公聴会のリンクから「昭和25年2月8日 第2号」という文字をクリックすると読むことができます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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