NHK本社の建替コスト1700億円を「会計士が真面目に」民放と比較しました。すると思った以上にひどい結果が…

NHK新放送センター建替の問題
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はじめに

こんにちは、草津会計士blog(@kkblog731)です。

以前の記事「NHK新放送センターの建設費1700億円はごまかし?基本計画・建設費・財源についてまとめます」では、NHKの新放送センターの建設予算1700億円は誤解しやすい数字であるということをお伝えしました。

おさらいすると、当初NHKが見積もっていた数字は3400億円(建設費1900億円・放送設備費1500億円)でしたが、その後の基本計画では放送設備費を含まずに1700億円公表しているのです。

実際、あるネットニュースの記事を見るとこのように書かれているものもあります。

当初NHKが算出した額は3,400億円でした。高額だと大変な批判を浴び、計画変更を余儀なくされた新国立競技場が2,520億円ですから、異常な額と言わざるを得ません。参考までに、03年に汐留に移転した日本テレビの社屋が約1,100億円、六本木ヒルズにあるテレビ朝日の社屋が約500億円です。結局計画は圧縮されましたが、それでも総額1,700億円をかける予定です

NHKの金満体質がひどすぎる! 「建て替えに573億円」「平均年収1,163万円」でも、受信料“50円値下げ”はNG…… (2018年4月13日) – エキサイトニュース

3,400億円は放送設備費を含んだ金額、1,700億円は含まない金額ですので、3,400億円から1,700億円に圧縮したというのは明らかに誤りです。また、日本テレビの社屋の1,100億円には設備経費400億円が含まれている(*2)ので、放送設備費を含まない1,700億円と比較しても意味がありません。

このように、1700億円という数字を検証したくても、何と比較すればよいのかが分かりにくいのです。

そこで今回は、民放の有価証券報告書などから情報を拾って、民放とNHKの建物だけのコストがいくらなのかを比較してみました。

同じ条件で比較したときに、建設費の金額は一体どのようになっているのでしょうか。

「建物の階数」や「延床面積」などを付けて分かりやすく比較していますので、最後までお読み頂けたら嬉しいです。

テレビ朝日の建設費

テレビ朝日本社ビル

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テレビ朝日本社ビル(東京都港区)は、テレビ朝日が2003年9月に運用を開始した本社兼スタジオです。階数は地下3階、地上8階、延床面積は約7万㎡で、建設費は約140億円と推定(*1)されます。

日本テレビの建設費

日本テレビタワー

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日本テレビタワー(東京都港区)は、日本テレビが2004年2月に運用を開始した本社および生放送の報道・情報番組と一部のバラエティ番組の制作のための建物です。階数は地下4階、地上32階、延床面積は約13万㎡で、建設費は540億円(*2)です。

フジテレビの建設費

FCGビル

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FCGビル(東京都港区)は、フジテレビが1997年4月に運用を開始した本社兼スタジオです。階数は地下2階、地上25階、延床面積は約14万㎡で、建設費は約1200億円と推定(*3)されます

湾岸スタジオ

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フジテレビ湾岸スタジオ(東京都港区)は、フジテレビが2007年7月に運用を開始したテレビ放送・テレビ番組収録兼用のスタジオです。階数は地下1階、地上7階、延床面積は約7万㎡で、建設費は330億円(*4)です。

NHKの建設費

情報棟

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NHKの情報棟(東京都渋谷区)は、2020年秋に着工、2025年からの運用開始を予定している、ニュースセンターやラジオセンターから構成される建物です。

階数は地下1階、地上9階、延床面積は約8万㎡で、建設費は573億円で契約を締結しています(*5)。

制作事務棟・公開棟等

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NHKの制作事務棟は、スタジオ・メインエントランス・執務スペースなどにより構成されます。階数は地下1階、地上18階、延床面積は約16万㎡を予定しています。

NHKの公開棟は、スタジオパーク・公開スタジオ・特大映像スタジオなどにより構成されます。階数は地上4階、延床面積は約2万㎡を予定しています。

制作事務棟・公開棟等は、2026年に着工、2035年に運用開始を予定しており、想定される建設費は合計で1100億円(*6)です。

まとめ

ここまでを表にまとめたものが下の図です。

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冒頭のネットニュースで比較されている数字を正しく置き換えてみると、このような数字になります。

  • テレビ朝日:(修正前 500億円)→(修正後 140億円
  • 日本テレビ:(修正前1100億円)→(修正後 540億円
  • NHK  :修正前1700億円)→(修正後167億円

修正前は「日テレよりも高い」といった印象でしたが、修正後は「日テレの3倍、テレ朝の10倍以上!」です。

また、NHK情報棟と似た構造の建物を比較してみても、NHKが突出して高いことが分かります。

  • テレビ朝日本社:    140億円(地下3階、地上8階、約7万㎡)
  • フジテレビ湾岸スタジオ:330億円(地下1階、地上7階、約7万㎡)
  • NHK情報棟:     573億円(地下1階、地上9階、約8万㎡)

こうやって見ると、ほとんどの国民が「やっぱりNHKは受信料を使って贅沢しているんだな」と感じるのではないでしょうか。

NHKは、建替の基本計画の中で「建替の原資が視聴者からいただいた受信料であることを忘れず、コストの無駄を徹底して排除します。」と強く公言しています。(どうでもいいのですが、「いただいた」ではなく「お預かりした」と言った方がいいと思います)

それならば、「計画金額は具体的にどうやって算出したのか」、「どのような点からコストの無駄を排除したのか」など、建設費の金額が合理的であるという根拠を国民に説明しなければ、「受信制度に対する国民のみなさまの理解」を得ることはできないのではないでしょうか

ちなみに、情報棟の設計施工業者は一般競争入札の結果、「竹中工務店・久米設計 設計施工企業体」に決定しています。しかし応募したその他の3グループが同時期にリニア談合事件で起訴され、規定により失格になってしまったようです。そのため、結果的に技術提案書の評価がされたのはこのグループのみでした。意図的にこうなってしまったのではないのでしょうが、これでは入札額が公正な取引価格であるかどうかを確認することはできません。もしNHKが説明する気がないのであれば、施工業者の竹中工務店さんに国会などで証言してもらうのもありかもしれませんね。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考・出典

  • (*1) 株式会社テレビ朝日ホールディングスの第66期有価証券報告書P18【主要な設備の状況】、「本社」の建物及び構築物の帳簿価額13,115百万円から、当ブログで推定計算
  • (*2) 2002年度第1四半期決算説明会において、日テレの細川取締役が「土地の上の建物に540億強、放送設備に400億弱となっている。(中略)したがって土地を除いて1100億という数字になる」と発言している。
  • (*3) 株式会社フジテレビジョンの第65期有価証券報告書P30【主要な設備の状況】、「本社」の建物及び構築物の帳簿価額79,813百万円から、当ブログで推定計算
  • (*4) 株式会社フジテレビジョンの第67期有価証券報告書P30【主要な設備の状況】、「湾岸スタジオ」の建物及び構築物の帳簿価格33,093百万円より
  • (*5) NHK INFORMATION「おしらせ」「放送センター建替工事(第Ⅰ期)設計施工業者の決定について」より
  • (*6) NHK INFORMATION「おしらせ」「放送センター建替 基本計画」より

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