はじめに
こんにちは、草津会計士blogです。
今回の記事は、前回に引き続き「NHKの新放送センターの建設費」に関する話題です。前回の記事「NHK新放送センターの建設費1700億円はごまかし?基本計画・建設費・財源についてまとめます」では、NHKの新放送センターの建設費がいくらかかる予定なのかをまとめました。その結果、建設費は1700億円の計画で、それとは別にかかる設備経費は当初1500億円と試算されていたことが分かりました。
新放送センターの建設開始は2020年秋に迫っています。建設費の原資である受信料を支払っている私たち国民は、高額な建設費が使われて新放送センターが出来上がるのを黙って見守っていてよいのでしょうか。
そこで、NHKの問題を考える上で「新放送センターの建設費にどのくらいの重要性があるのか」ということを考えてみたいと思います。
結論から言うと、「新放送センターの建築費は、NHK職員の人件費やスクランブル化の議論と比較すると金額的な重要性が低い」と考えています。
どういうことなのか、具体的な数字を使いながら説明します。
人件費と比較すると建設費の重要性はどのくらいか?
始めに、「NHKの財務に与える影響がどのくらいか」という観点から、新放送センターの建設費と職員の人件費を比較してみます。
具体的には、「新放送センターを使う間にNHKが支払う建設費の総額」と「新放送センターを使う期間にNHKが支払う人件費の総額」を試算します。
それぞれの影響を算定するにあたって、次のように仮定を置きました。
- 新放送センターを使う期間: 40年
- 新放送センターの建築費 :3000億円
- 年間で支払われる人件費 :1602億円(2018年度の実績)
すると、40年間で支払われる「建設費」と「人件費」の総額は、それぞれ次のようになります。
- 40年間で支払われる建設費の総額: 3000億円
- 40年間で支払われる人件費の総額:6兆4080億円
なんと、40年間で支払われる人件費の総額は、建設費の20倍以上にもなってます。つまり、職員の人件費というのは、同じ期間で見ると建設費と比べても相当大きい支出となることが分かります。
また、このことから「新放送センターの建設費を40%削減することは、職員の給与水準を2%削減することと効果が変わらない」と考えることもできます。
スクランブル放送の実施と比較すると建設費の重要性はどのくらいか?
次に、「国民の受信料負担に与える影響がどのくらいか」という観点から、新放送センターの建設費削減とスクランブル放送の実施を比較してみます。
ここでは、「もし建設費を50%削減できれば、一人あたりの負担はどれだけ減らせるのか」と、「もしスクランブル放送が実施されれば、NHKを必要としない人の負担はどれだけ減らせるのか」を試算します。
それぞれの影響を算定するにあたって、次のように仮定を置きました。
- 新放送センターを使う期間 : 40年
- 新放送センターの建設費 :3000億円
- 削減可能な建設費の割合 : 50%
- 受信料の月額 : 2280円(衛星契約の月額受信料)
- 契約者数 :5000万人(実際に近似)
すると、「新放送センターの建設費を50%減らせた場合」と「スクランブル放送を実施した場合」で、40年間で減らせる一人あたりの受信料負担額は次のようになります。
- 建設費50%削減で減らせる負担額 : 3000円
- スクランブル放送の実施で減らせる負担額 :109万4400円
ここでは、「スクランブル放送の実施」で減らせる負担額は、「新放送センターの建設費を50%削減」で減らせる負担額の364倍にもなります。言い換えると、「新放送センターの建設費を50%削減しても一人当たりの負担は3000円しか減らせないが、スクランブル放送を実施すれば一人当たりの負担は109万円減らすことができる」ということになります。
おわりに
今回は、新放送センターの建設費がNHKや国民にとってどれくらいの重要性があるのかいうことを考えてみました。その結果、「新放送センターの建築費は、NHK職員の人件費やスクランブル化の議論と比較すると金額的な重要性が低い」ということがご理解頂けたかと思います。建設費のように一回限りで発生するコストは一見数字が大きく見えますが、将来に渡って継続して発生するコストの方が、長期的には大きな影響を持つということです。
しかし、「建設費1700億円は大した出費ではないから気にする必要はない」と言っているわけではありません。むしろ強調したいのは、職員の人件費や契約の自由に関する議論の重要性が高すぎるということです。
そのため現時点でこの問題に対して、建設を取りやめる方向に働きかけることは、相対的にあまり高い効果を生まないと考えることもできます。それよりも、新放送センターの建設費の問題を、幅広い国民にNHKの高コスト体質を示すための一つの材料とすることで、もっと重要な問題に関する議論が活発になってくるのではないかと考えます。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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