はじめに
こんにちは、草津会計士blogです。
今回は、NHKの放送センターの建て替えに関する記事です。
NHKは東京都渋谷区に放送センターという拠点を構えており、敷地内には本館、西館、東館、北館、NHKホール、ふれあいホールという建物があります。これらの建物は、本部機能だけでなく、全国ネットワーク番組、関東甲信越地方向けブロック放送、衛星放送局や国際放送局の拠点としての役割を担っています。しかし、現在の放送センターには施設の老朽化やスペースの確保の問題があるとして、NHKは放送センターの建替えの計画を公表しています。
そこでこの新放送センターについて、「具体的にどのような計画なのか」、「建設費はいくらかかる予定なのか」、「建設費の原資は何なのか」などの情報をまとめていきたいと思います。また、タイトルの通り、建築費1700億円という数字には誤解を生みかねない点が存在していますので、その点についても解説します。
新放送センターの基本計画の概要
NHKの放送センターの基本計画は以下の通りです。
- 所在地: 東京都渋谷区神南二丁目2番1(現在地)
- 敷地面積: 82,645平方メートル
- 延床面積: 約27万平方メートル
- 工期: 2020年秋~2036年
- 棟構成: 情報棟・制作事務棟・公開棟
出典:放送センター建替 基本計画の概要(*1)
所在地は、現在の放送センターのある場所と変わりません。つまり移転ではなく、現在の敷地内の建物を順次建て替えるということになります。具体的には、第Ⅰ期として情報棟を2020年秋~2025年に建設、第Ⅱ期として制作事務棟、公開棟などを2026年~2036年に建設する計画です。また、NHKホールは建替をせずに継続使用する方針です。
以下の現在のNHKの見取り図と比べると、情報棟の分だけ広くなるようなイメージですね。
新放送センターの建設費はいくら?
次に、新放送センターの建設費がいくらかかる予定なのかを見ていきます。
ネットの記事を見ると、過去の記事では3000億円と書かれているものもありますが、ここ数年の記事では1700億円という数字を見ることが多いように思います。では、実際のところはどの金額が正しいのでしょうか。
結論を先に言うと、新放送センターの建設費は1700億円(ただし設備費等は含まない)と公表されています。下線を引いた部分が大事なので、以下で詳しく解説します。
今から4年前、2015年にNHKは放送センターの建て替えにかかる資金を約3400億円と試算していました。
- 建物経費(建築関係、電源設備、設計・監理) :約1900億円
- 機械・設備経費(番組制作設備、送出・送信設備など):約1500億円
- 合計 :約3400億円
出典:「平成27年度 収支予算と事業計画の説明資料(*2)」P7
しかしその後、2016年にNHKが公表した資料を見ると、想定建設費は1700億円(税抜)とされています。
- 第Ⅰ期 情報棟 : 600億円
- 第Ⅱ期 制作事務棟・公開棟等 :1100億円
- 想定建設費(建物費、設計・監理料、電源設備費)合計:1700億円
出典:「放送センター建替 基本計画の概要(*1)」P30
一見すると建設費が半分になったように見えますが、実はそういうわけではありません。どういうことかというと、前者の3400億円には機械・設備経費1500億円が含まれているのですが、後者の1700億円にはこの費用が含まれていないからです。このことは「放送センター建替 基本計画の概要(*2)」P30において、「上記の経費には放送設備費は含まれていません。」と注意書きがされていることから確認することができます。
NHKが放送設備費の数字を公表していない理由は定かでありません。しかし一つ言えることは、建設費は1700億円の計画だが、これらには当初1500億円と試算されていた機械・設備経費は含まれていないということです。高額な建設費に批判が集まったので減額したのかと思っていましたが、調べてみたらどうやらそういうことではないようです。
なお、2018年4月には第Ⅰ期の設計施工業者が決定し、契約金額は573億円(*3)となりました。第Ⅰ期の想定建設費が600億円でしたので、想定金額内に収まったということになります。
新放送センターの財源は?
このように新放送センターの建設には1700億円(ただし設備費等は除く)という多額のお金が投じられることから、そのお金がどこから出てくるのか気になる方もいらっしゃるかと思います。
結論としては、新放送センターの建替費用の支払いには受信料を原資として積み立てられた資産が充てられると考えられます。
貸借対照表を見ると、NHKは現金預金と有価証券をあわせて、およそ7340億円保有していることが分かります(連結ベース・2018年度期末残高)。
- 現金及び預金 :1296億円
- 有価証券 :3039億円
- 長期保有有価証券 :1298億円
- 建設積立資産 :1707億円
- 合計 :7340億円
言うまでもなく、これらの原資は私たちが過去に払ってきた受信料です。このようにNHKは多額の資産を蓄積しているので、これらをNHKの新放送センターの建築費の支払いに充てることができます。そのため、多額の建設費がかかるからといって、今後の受信料が一気に値上げされるようなことにはならないと考えられます。
ちなみに、「建設積立資産」というのは将来の建設投資のために積み立てられた有価証券を表しています。一般の企業会計にはない会計処理なのであまりピンと来ないのですが、大部分はこの新放送センターの建替えのために積み立てているようです。
少し専門的な話になりますが、「建設積立資産」については以下の記事でまとめていますので、もしご興味がありましたらご覧ください。

おわりに
今回は、NHKの新放送センターの建替えについてまとめていきました。
建設費の1700億円という金額が虚偽ということではないのですが、過去の数字と比較すると誤解を招きかねないように思われます。
また、建設費の金額が合理的なのか、もしくは高すぎるかということは、様々な要素が絡んでくるため、検証が非常に難しいものと考えられます。しかし、国民からの受信料を原資にしている以上は、NHKは本当に必要な投資であることをしっかりと説明し、国民の理解を得ることが必要です。出来上がったあとに、「NHKの金満体質の象徴」などと言われないようにして欲しいですよね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考リンク
- (*1) 放送センター建替 基本計画の概要(PDFが直接開きます)
- (*2) NHK INFORMATION「平成27年度収支予算、事業計画及び資金計画」
- (*3) 放送センター建替工事(第Ⅰ期)設計施工業者の決定について(PDFが直接開きます)
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