はじめに
前回の記事「NHKが国民に与えているのは公益かそれとも公害か?客観的な数値で測定する方法を考えてみました。」では、NHKが事業コストに見合う価値を提供しているかを客観的な数値として示す手段として考えられる方法を取り上げました。
その後よく調べてみると、NHKが生み出した価値を測るためのVFMという指標が、すでにNHKにより公表されていることが分かりました。しかしその指標によると、NHKは事業コストの1.8倍もの価値を生み出している優良企業であり、信じられないほど大きな利益を国民にもたらしていることになります。もしこれが事実であるとすれば、「スクランブル放送でNHKがぶっ壊れる」などと主張している以前の記事の前提が大きく覆されてしまうことになります。
そこで今回は、NHKが公表しているVFMとは何か、VFMはどのように算定されているのかについて調べてみました。
VFMとは何か
VFM(Value for Money)とは、NHKの経営指標の一つで、四半期業務報告書(*1)の「経営14指標の世論調査結果」という箇所で以下の通り記載されています。
この業務報告書の説明によると、VFMとはNHKが生み出した価値を測るための指標で、1以上を確保することが目標とされています。つまり、VFMはNHKが事業コスト(≒受信料)の何倍の価値を生み出しているかを表していると言えます。直近の数値を見てみると、2018年度末ではNHKは事業コスト(≒受信料)の1.81倍の価値を生み出している(VFM=1.81)ということのようです。
この数字をそのまま読むと、NHKは集めた受信料を無駄遣いすることなく効率的に使って、コスト以上の価値あるサービスを私たちに提供してくれていることになります。しかし、本当にそのように考えてよいのでしょうか。
事業コストに対してどのくらいの価値を生み出しているかを測るVFMという指標は、営利企業でよく使われている「営業利益率」と基本的には同じような考え方です。しかし、営業利益率は優良とされる企業でも10%~20%程度であることが一般的です。実際、民間放送の2018年度営業利益率は、日テレ11.7%、フジテレビ5.2%、TBS5.1%というように、高くても10%台です。仮にその中の一社の営業利益率が81%だったとしたら、粉飾決算を疑われても仕方のないレベルでしょう。
それでは、NHKの生み出す価値が事業コストの1.81倍という指標はどのように算定されているのでしょうか。次から具体的な算定方法を見ていきましょう。
VFMはどのように算定しているのか
まず、VFMの算定式ですが、次のようになっています。
- VFM = 視聴者の支払意思額の合計 ÷ NHKの事業支出額
視聴者の支払意思額というのは、視聴者がNHKの番組を見るためにいくらまでなら払ってもいいと考える金額のことです。それらを合計した金額を推定し、事業支出額で割ることによって、コストに対して何倍の価値を生み出しているかを算定しているということになります。
支払意思額を推定するための調査の方法
次に、視聴者の支払意思額の合計がどのように推定されているのかを見ていきましょう。
「放送を巡る諸課題に関する検討会第9回追加ヒアリングご説明資料(*3)」によれば、平成27年1月実施分における調査概要および支払意思額の分布は以下のようになっています。
ちなみにこの方法は、仮想的市場評価法(CVM)と呼ばれる、公共事業の効果を測定する際などに用いられる方法のようで、平成21年7月に国土交通省から「仮想的市場評価法(CVM)の適用の指針(*2)」という文書も出されています。しかし、最近の事例などはあまり見つけることができなかったため、現在も有効に機能すると解されてるのかは不明です。
<調査概要>
・調査地域・対象:全国の16歳以上の男女個人
・標本数:3,600人
・抽出方法:層化2段無作為抽出法(住民基本台帳を活用)
・調査方法:面接法および訪問留置法
<調査方法>
・CVM(仮想市場法)調査において一般的な方法とされる3段階2項選択方式により実施しています。具体的には、まず一定の金額を示し、それに対する回答によってさらに高いあるいは低い金額を示します。これを繰り返して回答していただくことで、回答者の意思に近い額を把握するように設計しています。
・これによって得られた次ページの回答者分布結果に基づき、第三者の専門家の監修のもと、学術的に確立された計量経済学の手法(ロジスティクス分布を仮定した推計モデル)を用い、支払意思額を推定しています。
また、「CVMによる公共放送の価値の測定(*4)」という文書では、さらに詳細な調査手法が書かれています。これ自体は平成17年度の調査結果に関するものなので、現在も同じやり方を踏襲しているのかどうかは確認できませんでしたが、具体的には以下のようなアンケート調査を行っているようです。
視聴者の支払意思額の合計を推定する方法をまとめると、次のようになります。
- 無作為に選ばれた人に対してアンケート調査を実施し、「NHKの地上(衛星)放送を見るために〇〇円支払いますか」という質問を3段階行うことによって、その人の支払意思額を割り出す。
- 上記の結果をもとに、統計的手法を用いて全体の支払意思額の合計を推定する
おわりに
今回は、NHKが公表している、NHKが生み出す価値を測る指標であるVFMについて調べてみました。
これ自体は、視聴者がサービスの価値を金額で評価している点では、ある程度合理的な考え方かと思っています。一方で、結果が「1.81」という異常とも思える数値になっていることから、調査方法などに問題があり、実態を適切に表していない可能性があると考えられます。VFMの信頼性については、また別の記事で検証してみたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
(*2) 「仮想的市場評価法(CVM)適用の指針」の策定について
(*3) 総務省|放送を巡る諸課題に関する検討会|放送を巡る諸課題に関する検討会(第9回)配付資料
(*4) 公共放送の価値の測定 (直接PDFが開きます)
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