はじめに
今回は、「NHKのスクランブル放送が実施されると何が起こるのか」を検証していきます。
この記事は以下の続きの記事となっています。直接こちらをご覧になっている方は、先に第1回からお読み頂くことをおすすめします。
第1回では、もしスクランブル放送が実施されると、私たちの身の回りでは何が起こり、どのような結末を辿るのかを予測して、ストーリー仕立てでまとめました。

この第2回では、予測されるシナリオがどのような前提やデータに基づいて作成されているのかを一つずつ解説しています。
注意:この記事中の記述は、いくつかの仮定を基に作成された将来の予測であり、フィクションです。
NHK崩壊の予測シナリオの解説
スクランブル開始直後(非視聴者の離脱)
スクランブル開始時の月額視聴料は900円
NHK「来月からBSスクランブル放送が開始されます。視聴料は今までと変わらない月額900円です。これからも引き続き、新しく生まれ変わったNHKをよろしくお願いします。」
スクランブル視聴料の月額900円というのは、現在の衛星放送受信料(*1)とおおむね一致させています。NHK受信料は支払いの方法によって多少増減しますが、最も安い場合で898円、最も高い場合で970円です。今回は、計算しやすいよう便宜的に900円としました。また、今までと比べて安くした場合は採算がとれず、高くした場合は視聴者離れが一気に進むため、まずは同じ料金体制を取るだろうと想定されます。
スクランブル開始と同時に6割の人が解約
まずはじめに反応したのは、普段あまりテレビを見ない人たちです。
「やっとスクランブル放送がはじまったか。今までは契約が義務付けられていたから仕方なく払ってたけど、BS放送とかどうせ見てないんだから払うわけないよね。NHKをぶっ壊す!なんちゃって(笑)」
ひとり暮らしの若年層を中心とする多くの人たちが、スクランブル開始と同時に契約を解除することにしました。
当初の加入件数2162万件のうちの6割がNHK衛星放送を解約しました。残りの加入件数は865万件(40%)です。
当初の加入件数2162万件というのは、NHKが公表している2019年度末実績値(*2)を使っています。
スクランブル放送の実施とともに6割が解約したことに関しては、いきなり6割が解約するなんて多すぎると感じるかもしれません。しかし、NHKの実施した世論調査結果(*3)によれば、自宅でNHKの衛星放送を見れる環境にある人のうちの64%の人が1週間に5分未満しかみていないという結果があります(衛星放送を見ることのできる人の割合49.7%、NHKのBS放送を1週間に5分以上見た人の割合17.8%より算定)。この調査は個人別ですので、世帯別に調査するともう少し割合は下がる可能性はありますが、6割の人がNHKのBS放送をほとんど見ていないという仮定は十分現実的なのではないかと考えています。
もう一つ別の統計を見てみましょう。総務省が公表している「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査(*4)」では、全年代の利用率(普段の生活で自分が利用することがある旨の回答をした人の割合)は、LINE75.8%、Facebook31.9%、Twitter31.1%、YouTube72.2%、Instagram25.1%という調査結果が示されています。YouTubeやLINEですら普段利用しない人が3割弱いて、TwitterやInstagramに関してはおよそ7割にのぼるのです。一人勝ちしていると考えられるサービスでも一定数の人は全く触れていないということがイメージしてもらえたかと思います。
スクランブル開始から3か月後(ライトユーザーの離脱)
契約者数が4割に減ったことで、月額視聴料は2250円に値上げ
NHK「来月からBS放送の視聴料が月額2250円になります。皆様には負担をお願いすることとなりますが、NHKは視聴者のみなさまによって成り立っています。どうか、みなさまのご理解のほど、よろしくお願いします。」
契約者数が減ると受信料が上がる理由について、念のためここで解説します。
今回のシナリオでは6割の人が解約し、契約者数は当初の4割にまで減りました。しかし契約者数が減ったからといってその分コストが減るかというと、そんなことはありません。コストはその性質によって、売上と比例するコスト(製品の材料費など。これを「変動費」といいます)と、売上に比例しないコスト(本社の電気代など。これを「固定費」といいます)の2種類に分類できます。NHKの場合は固定費の比率が非常に高いため、契約者数が減ってもコストはほとんど変わらないと考えられます。
そうなると、今まで放送にかかるコストを100人で負担していたところを、今度は40人で負担しなければいけません。そのため、契約者数が4割に減ると、視聴料を2.5倍、つまり月額900円から月額2250円に値上げしないと赤字になってしまうということになります。
契約自由化により、他社との競争環境下に置かれる
「いきなり値上げ~!?BS放送って、たまにチャンネル変えて面白そうな番組があったら見るくらいなんだよな。そもそもBSだけで月額2000円超えってマジかよ?そんなんだったらメンタリストDaiGoのニコニコチャンネルに月額540円で入会した方が、仕事面や恋愛面などでよっぽど役に立つだろうな。」
働き盛りの世代など、値上げを契機にしてこんな風に考える人が出てきました。
ここでは、NHKが他の放送や他媒体の提供するサービスとの競争環境に置かれたことを表しています。つまり、今までは契約が義務づけられていたのですが、これからは視聴者に契約の自由が与えられたため、より価値が高いサービス、またはより価格が安いサービスがあるとそちらを選ぶようになります(これを「市場原理」といいます)。
ちなみになぜDaiGoさんを例に挙げたかというと、DaiGoさんの動画を見るのが最近の日課になりつつあるからです(笑)。
さらに半数の人が解約
さらに半分の人がNHK衛星放送を解約しました。残りの加入件数は432万件(20%)です。
ここでさらに半分の人が解約しました。半分というのはあまり重要でないのですが、なぜ契約者数の減少が止まらないのかということはこの後で解説しています。
スクランブル開始から9か月後(テレビ好き層の離脱)
契約者数が2割になったことで、月額視聴料は4500円に値上げ
NHK「来月からBS放送の視聴料が月額4500円になります。今後とも、よりよい番組づくりのために活かして参りますので、みなさまのご理解のほど、よろしくお願いします。」
上で説明したのと同様です。契約件数が半分になったので、NHKは赤字にならないために、視聴料を2250円から2倍の4500円に値上げしました。
番組の質の低下が進む
今まで家族でBSドラマを見ていた家庭でも、そろそろ視聴料の負担が家計に響くようになってきました。しかも、値上げしているのにもかかわらず、明らかに番組の質が低下しているのです。
「月に4500円あればスカパーのチャンネル5つとWOWOWのチャンネル3つをあわせてもお釣りがくるわよね。それとも老後に備えて貯金に回した方がいいかしら」
普段からテレビをよく見ている主婦たちの間では、こんな話がされるようになりました。
このまま視聴料の値上げが続くのはまずいので、NHKは経費の削減に取り組むことになるでしょう。しかし、番組予算を削減すれば一般的に番組の質の低下に直結します。また、従業員の給料を低下させれば、モチベーション低下や有能な人材の流出によって同様に提供するサービスの品質に影響を与えることになります。
NHK職員による新しい問題が発生
一方そのころ、契約を解除した家庭では、頻繁に訪問営業にくるNHK職員がしつこくて困り果てています。
訪問営業という手段を取るのかどうかは定かでありませんが、起こるかもしれない一つの悪い影響の例としてシナリオに加えてみました。スクランブル化で集金人の仕事がなくなって訪問営業をしに来るというのは、なんとなくありそうな気がしています。
さらに半数の人が解約
さらに半分の人がNHK衛星放送を解約しました。現在の加入件数は216万件(10%)です。
これは上の説明と同じです。
スクランブル開始から1年後(ファン層の離脱)
契約者数が1割になったことで、月額視聴料は9000円に値上げ
NHK「来月からBS放送の視聴料が月額9000円になります。」
これを聞いてびっくりしたのは、白黒テレビの時代からNHKを欠かさず見ていた、富山県に住む63歳男性です。
「月額9000円だって!いくらなんでも高すぎやしないか?そもそも何で内容が変わらんのに料金だけ1年で10倍になるんだ。それどころか最近はくだらん番組が増えすぎだし、無駄遣いが直らんからこんなことになるんだ。ええい、もうこうなったらNHKは衛星放送はおろか、地上放送だって見てやるものか!!」
上で説明したのと同様です。契約件数が半分になったので、NHKは赤字にならないために、視聴料を4500円から2倍の9000円に値上げしました。
ここで、なぜ契約者数の減少が止まらなかったのかを説明します。民間会社のBS放送の加入件数を見てみると、WOWOWが288万件(*5)、スカパーが277万件(*6)です。つまり、自分の意思で月々お金を払ってBS放送を見ている人は、このくらいしか存在していないという状況が分かります。
上の表は、BS放送会社の契約者数と単価を表したものです。スカパーは月額3600円で加入件数288万件です。WOWOWは月額2300円で加入件数は277万件です。一方、今回のシナリオの数字を前提とすると、NHKBSが赤字を出さないためには、月額6480円で加入件数300万件を維持しなければなりません。もしくは、WOWOWと同じ月額2300円であれば加入件数845万件でトントンです。NHKならでの優位性というのはあるかもしれませんが、どう見ても互角に競争できるような条件には見えませんよね。
なぜこうなってしまうかというと、NHKの番組制作コストが突出して高いからです。
今まで民間企業との競争下に晒されていなかったために採算を考えなくてもよく、高くて売れない商品を国民に無理やり売りつけて受信料を回収することができたわけです。
つまり、現在のNHKのBS放送には同業他社と比較して価格競争力がないために、受信料を値上げし続ければ契約者は減少し続けると予想されます。
NHK職員による高齢者への不適切な受信契約の発覚
ちょうどこの頃、NHK職員による高齢者への不適切な受信契約の実態が発覚し、大きな社会問題となりました。
この高齢者への不適切な受信契約は、実際にかんぽ保険で最近発生した事例を基にしています。かんぽ保険で何故お年寄りに付け込んだ不正な保険販売が行われたのでしょうか。それは、今まで採算を重視していなかったところに、民営化によって急に民間との競争に晒されることになったため、競争力で劣る商品を販売するために過剰なノルマが課されたことが大きな原因だと考えられます。一つ前の項目でNHKのBS放送には競争力がないという説明をしましたが、その状況で契約を増やそうとしたらどうなるでしょうか。こういう不正が起こってしまわないとも限らないですよね。
スクランブル開始から3年後(BS放送からの撤退)
衛星放送からの完全撤退
フジテレビ「本日、日本放送協会が記者会見を行い、衛星放送から完全撤退する方針を固めたとの発表を行いました。なお、衛星放送部門の債務超過額はおよそ2800億円とされており、政府は税金による補填を視野に対応策の検討を進める方針です。(後略)
債務超過というのは、事業により損失を出し続けた結果、企業の価値がマイナスとなっている状態です。それでは、なぜNHKの衛星放送は債務超過となったのかということを考えてみましょう。このシナリオでは、2年目から撤退までの2年間、視聴料を9000円で据え置いていたという設定にしています。つまり、これ以上値上げをすると顧客離れが一気に進んでしまうので、それを食い止めようとしたわけです。しかし、それを行うと、コスト>収入となり損失が出てしまうということになります。現在の衛星放送関連のコストは年間およそ2000億円かかっています。2年間の合計4000億円のうちおよそ半分が回収できなかったために2800億円の債務超過となってしまったのです。
なぜ政府は税金による補填という対応策を取ろうとしているのでしょうか。国民の血税が使われるなんておかしいじゃないか、と思いますよね。実際にこうなるかどうかは分かりませんが、重要なのは現在の制度上、NHKが損失を出した場合に最終的に損をこうむるのは、我々国民であるということです。なぜそういえるかということは、以前の記事、「NHKの正しいぶっ壊し方」第1回ースクランブル放送をすべきでない2つの理由」でまとめているので、よろしければご覧ください。
おわりに
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
第2回では、予測されるシナリオがどのような前提やデータに基づいて作成されているのかを一つずつ解説しました。少し書き方が分かりづらい部分も多いかと思いますが、スクランブル放送を実施するとNHKがぶっ壊れる理由を少しでもイメージしてもらうことが出来れば嬉しいです。
続きの記事は以下からご覧いただけます。

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参考リンク
(*1) NHK受信料の窓口-NHK放送受信契約・放送受信料についてのご案内
(*2) NHK INFORMATION「平成30年度決算」
(*3) 世論調査|NHK放送文化研究所
(*4) 総務省|情報通信政策研究所|情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査
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