はじめに
今回はNHKの集金人制度に関する話題です。
皆さんは、NHKが受信料を回収するためのコストがいくらかかっているかご存じでしょうか。
昨年度、受信料の回収等に伴うコストは773億円かかっています。これは受信料総額の約1割を占める金額です。これは感覚的に言ってもかなり高いと思いますが、実際に公共放送を行っている他国と比べても相当程度に高い水準です。
また、全国の契約対象のうち実際に支払っている割合は82%です。一方、イギリスやドイツなど他国の公共放送の割合は概ね95%を超えています。
なぜこんなに違うのかというと、他国が電力料金などとの一括収納を行っているのに対し、日本が集金人制度という時代遅れの制度を取っているためであると考えられます。もし日本もこのような制度を取り入れることができれば、受信料も値下げできるし、集金人が家に来ることもなくなって一挙両得ですよね。
そこで今回は、集金人制度を変えると受信料がどれだけ減るのかという点について考えてみたいと思います。
なお、この話はNHKから国民を守る党(N国党)が公約として掲げているスクランブル放送の実施、あるいは民営化を前提とした場合にはあまり関係のない論点と言えます。なぜかというと、スクランブル化や民営化した場合には自動的に集金人が必要でなくなるからです。あくまでも、現状維持や分社化を前提とした場合の、集金人問題に関する解決策の一つとしてお考え下さい。ただ、スクランブル放送の実施や民営化を前提とする場合でも、集金人による無駄なコストが削減できるという意味では参考になるかもしれません。
集金人制度を変えると受信料はどれだけ減るのか
営業経費の削減による影響
まずは、営業経費率を減らすと費用がどれだけ削減できるのかを見ていきましょう。
上の図をご覧ください。NHKウェブサイトで公表されている決算概要によると、平成30年度の受信料収入は7122億円、営業経費は773億円、営業経費率は10.8%でした。
受信料収入とは、国民から集めた受信料の総額のことです。
営業経費とは、受信料の回収等に伴うコストのことをいいます。
営業経費率とは、受信料収入のうち営業経費の占める割合のことをいいます。
仮に営業経費率がイギリスやドイツと同程度の3.0%だとすると、営業経費の額はいくらになるでしょうか。
受信料収入7122億円に営業経費率3.0%をかけると営業経費の金額は214億円になり、559億円の減少となります。
つまり、営業経費率を他国と同じ水準にするだけで、年間で559億円の費用削減効果が見込まれるということになります。
支払率の増加による影響
次に、先ほどの営業経費の削減効果に加えて、支払率が増加すると世帯当たりの負担額はどのように変化するかを見ていきましょう。
平成30年度実績の事業支出は7060億円、支払数は4093万件、支払率は82%でした。
事業支出とは、放送事業を行うためにかかる総コストのことを言います。基本的にはこの事業支出を、我々国民が受信料を払って負担していると考えると分かりやすいと思います。
支払数とは、実際に受信料の支払いがされた契約の数です。
支払率とは、受信契約をすべき全ての対象の推計値(受信契約対象数)のうち、実際の支払いがされている契約の割合のことです。
つまり、事業支出を支払数で割ると、1つの契約につき年間でいくら受信料を負担すべきかを算出できます。実際に計算してみると、実績値に基づく契約あたり年間受信料は17,249円となります。支払数の中には地上契約のみの契約と、地上契約と衛星契約のセットの契約が混ざっているので、平均すると大体これくらい払っているという結果です。
それでは、支払率が他国と同程度の95%と仮定すると、契約あたり年間受信料がどうなるかを計算してみましょう。
まず、実際の事業支出7060億円から、営業経費の削減効果による559億円を差し引いて、営業経費率を3%と仮定したときの事業支出を計算すると6501億円となります。
次に、支払数を計算します。支払率が82%のときの支払数が4093万件なので、支払率の分母の受信契約対象数は4093万件÷82%=4991万件です。受信契約対象数に支払率をかけると支払数になりますので、支払率が95%と仮定したときの支払数は4742万件になります。
最後に事業支出を支払数で割ると、営業経費率が3%、支払率が95%になれば契約あたり年間受信料は13,709円になります。
つまり、営業経費率と支払率を他国と同じ水準にするだけで、受信料は今よりも21%値下げすることができるということです。
営業経費率を下げて支払率を上げるためにはどうすればよいか。非効率な集金制度を取りやめ、他の料金との一括収納を検討すべきということは明らかでしょう。
おわりに
このような結果から、集金人制度をやめて電力や税収との一括収納という方法を取れば、受信料の値下げを通じて国民の利益につながると言えるでしょう。
NHKがこのような制度を続けているのはなぜでしょうか。法制度の問題、公共性が阻害されるおそれ、集金人の雇用を守るためなどがざっと考え付くところです。
少し長くなりましたので、続きはまた別の記事で取り上げたいと思います。
参考リンク
NHK INFORMATION NHK受信料制度等検討委員会
「過去の資料」の第3回説明資料で、支払率や営業経費率の他国比較がされています。
平成30年度決算概要(単体・連結)で、今回使用した数値が公表されています
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