はじめに
こんにちは。公認会計士の草津です。
今回は、参議院議員の立花孝志議員が代表をつとめるNHKから国民を守る党(N国)が公約として掲げているスクランブル放送の実施に関する話題です。
タイトルにも書きましたが、私個人としてはNHKのスクランブル放送の実施には反対です。
これは何も、NHKが好きだから今のままでいいとか、立花氏のやり方が気に食わないとか、そのような個人的な意見ではありません。むしろ、今のNHKのあり方は改善すべきだと思っています。
しかし、スクランブル放送の実施には2つの問題点があると考えています。そして、N国党の目指す「NHKをぶっ壊す」というスローガンは、スクランブル放送とは別の方法で達成するべきなのではないかと考えています。。
そこで今回は、①スクランブル放送をすべきでない理由、②NHKを正しくぶっ壊すための方法の2点について、見解をまとめました。
公共放送の必要性について
スクランブル放送をすべきでないと考える一つ目の理由は、公共放送の必要性についての民意が明確になっていないことです。
仮に地上放送と衛星放送ともにスクランブル放送を実施した場合、NHKに公共放送としての役割を期待することは不可能であると考えています。なぜかというと、契約率によって収益が増減するという収益構造になるため、どうしても視聴率を重視せざるをえないからです。「民間の放送会社との激しい競争に晒されながら、民放とは違って視聴率に左右されない番組づくりをしてください」というのは、あまりに無茶だと思います。
つまり、スクランブル放送の実施というのは、極端に言えば公共放送の廃止と同じです。控えめに言っても、契約を増やさないと存続できないおそれがある組織が、現在と同じレベルの公共性を保てるとは考えづらいですよね(今のNHKが本当に公共放送の役割を果たしているかという議論はひとまず置いておきます)。そもそも立花議員がyouTubeで言及されていたように、放送法により放送事業者には須らく公共性が求められているのを前提として、公共放送であるNHKにはさらに上の公共性が求められているわけです。
それでは、国民は公共放送の必要性についてどのように考えているのでしょうか。今のところ、多くの国民がそのような議論までは至っていないのではないでしょうか。
スクランブル放送の実施に国民の半数以上が賛成というアンケート結果もあるそうですが、全ての人が公共放送の在り方を踏まえた上で回答しているわけではないと考えられます。おそらく、NHKを見続けるつもりの人の中には、「引き続き受信料を払ったら視聴できるのだからいいか」と考えて賛成している方もいるのではないでしょうか。
このように、公共放送のあり方というのは国民全体に関わる問題ですので、「日本社会にとって公共放送は必要でない」という国民の意見が多数でなければ、方向性を切り替えるべきと考えています。
NHKの所有権と経営権について
スクランブル放送をすべきではないと考える二つ目の理由は、NHKの所有権と経営権の問題を解決できないことです。
NHKの所有権について
まずは、所有権について見ていきましょう。これは、NHKは誰のものかということです。
上の図は、株式会社とNHKの構造を単純化したものです。図の赤い部分に注目してみてください。
左の株式会社の場合は、株式会社に出資をしている株主が会社の所有者です。所有者である株主は事業から生じる利益を得ることができる一方で、事業上のリスクを負っています。つまり事業によって損失がでれば、株主の持っている株式の価値が下がって損をしてしまうことになります。
一方でNHKの所有者は誰なのでしょうか。実はNHKは放送法に基づき設立された特殊法人であり、所有者が存在しません。それでは、所有者が存在しないということは、NHKの事業のリスクは誰が負っているのでしょうか。
法律上は明確に書かれていませんが、実質的にNHKの事業のリスクを負っているのは受信料を払っている国民と言うことができます。
なぜかというと、NHKが事業を運営するために使っている費用は国民からの受信料により公平に負担しているからです。言い換えると、仮にNHKが無駄遣いをしていたとすれば、その無駄遣いによって損失を被っているのは受信料を払っている国民です。
具体的な例を見てみましょう。2019年3月末時点で、NHKは連結上8646億円もの純資産を保有しています。これは、過去の受信料を使いきれなかった余りの資産であり、本来であれば受信料の値下げを通じて国民に還元すべきものです。もしNHKが経営の失敗や無駄な支出を繰り返したことによって赤字になれば、国民に還元すべきであった剰余金が毀損してしまいます。これは、NHKの事業上の損失を国民全員が負担しているということに他なりません。
さらに、仮にスクランブル放送が実現した場合に、契約率の低下を理由にNHKがスクランブル放送受信料の値上げに踏み切れば、視聴者はさらなる負担を強いられることになります。この追加的な支出は、視聴者として受けられるサービスの価値の向上によるものではなく、NHKが市場原理に基づく競争の結果出した事業上の損失の負担です。
このように考えると、受信料を支払っている国民が、実質的にNHKの所有者であると言うことができると思います。
NHKの経営権について
次に、経営権について見ていきましょう。これは、所有者がどうやって会社の経営に関与できるかということです。
さきほどと同じ図ですが、今度は図の緑の部分をご覧ください。
株式会社の場合は、株主は取締役の選任について議決権を行使することによって、会社の経営権に関与することができます。つまり、株主は事業のリスクを負っているために、しっかりと株主の利益のために働いてくれる人に経営を任せる必要があるわけです。
一方のNHKはどうなっているかというと、国民は直接多数決で経営権に関与することができません。NHKには経営委員会という組織が存在していますが、これらの経営委員は国会の承認を経て内閣総理大臣により任命されることとされています。したがって、国民がNHKの経営に関与できるのは、投票によって国会議員を選ぶことだけです。
そのような仕組みでは、仮にNHKの経営陣がふさわしくないと思っている国民が半数以上いたとしても、その民意が反映されることにはならないでしょう。
多くの国民がNHKの受信料は不当に高すぎると思っていても何も変わらないのは、このように実質的な所有者である国民が、NHKの経営権に関与する力が弱すぎることが原因なのです。
このままスクランブル放送にすると何が起こるか
国民がNHKを実質的に所有しているという構図を変えないまま、スクランブル放送の実施をすると一体何が起こるでしょうか。
受信料を払わないことを選択した国民は、NHKの事業上のリスクを負うことはありません。したがって、NHKの実質的な所有者は引き続き受信料を払う視聴者に切り替わることになります。視聴者は受信料負担を通じて事業上のリスクを負っていますが、引き続き経営権に関与することはできません。ただし、受信料を払わないという選択をして事業上のリスクから逃れることはできます。
このような構造の組織が今まで存在したでしょうか。国の場合は、国民は基本的に税負担から逃れることはできません。また株式会社の場合は、株主は株式を外部に売却することによって、それによって得られる利益とリスクを第三者に移転します。しかし、NHKスクランブル化の場合、視聴者がリスクから逃れるという選択をする度に、残っている視聴者のリスクが増大していくのです。
これは想像でしかありませんが、契約率の低下により受信料が値上げされ、受信料の値上げにより契約率がさらに低下し…という繰り返しの結果、NHKはとんでもないスピードで崩壊に向かっていくのではないかと危惧しています。
NHKから国民を守る党はどうやって「NHKをぶっ壊す」べきか
このように、①公共放送の必要性についての民意が定まっていない、②NHKの所有権と経営権の問題がある、という2つの問題があるため、「NHKをぶっ壊す」手段としてスクランブル放送は適切ではないのではないかと考えています。
それでは、N国はどのようにして「NHKから国民を守る」ことができるのでしょうか。
私は、「日本社会にとって公共放送であるNHKの存在が必要であるか」という議論の帰結によって、それぞれ次のような政策が最も合理的と考えられます。
- 公共放送が不要ということになれば、NHKの民営化
- 公共放送が必要ということになれば、NHKの分社化
(公共放送と民間放送に分社化し、民間放送を民営化)
続きです。
https://kkblog731.com/?p=44
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