はじめに
こんにちは、草津会計士blogです。
よく「NHK職員の給料が高すぎる」という意見をネット上などで耳にします。
NHK職員の平均年収についての記事やツイートを見てみると、1100万円や1700万円、1800万円というように、バラバラなこともありますよね。もし平均年収が1700万円だとすれば相当異常な水準と言えますが、実際のところの平均年収はいくらと考えるのが正しいのでしょうか。
ということで今回は、「NHK職員の平均年収はいくらなのか?」、「平均年収1700万円の根拠やデータソースは?」ということをまとめました。
NHK職員の平均年収はいくらなのか?
結論から言うと、NHK職員の平均年収は約1100万円と算定されます。
それでは、どのようにこの金額が計算できるのかを見ていきましょう。
以下の図を見てください。これはNHKが公表している、2018年度(2018年4月1日~2019年3月31日)の給与と年度末要員数を表したものです。
(出典:平成30年度 決算概要(*1))
これを見ると、「給与」が1,115億円、「年度末要員数」が10,150人ということが分かります。この給与は、財務諸表では「基本給、基準外賃金、賞与及び諸手当等」と書かれていますので、一般的に言う「年収」の金額と言えます。
- 「給与」1,115億円 ÷ 「年度末要員数」10,150人 ≒ 「平均年収」1,100万円
このような計算式によって、NHK職員の平均年収は約1100万円ということが分かります。
元の情報が信頼できるかどうかは、以下の通り一定の信頼性があると考えています。
この「給与」の金額は、監査法人の監査対象である「平成30年度財務諸表」(*1)にも記載されている金額なので、一定程度は信頼性のある数字ということが言えると思います。また、年度末要員数は監査対象ではありませんが、NHKのよくある質問(*3)でも2019年度の職員数が10,333人と公表しており、職員数が1万人程度と考えるのは理にかなっていると考えられます。
一つ考えられるとすれば、給与には出向者の分は普通含まれないため、NHKの子会社に出向している職員が「年度末要員数」に含まれていた場合は、実際の平均年収はもっと高くなるということです。ただし、こうやって並べて表示している以上、そのようなことはないと考えることにしておきましょう。
平均年収1700万円の根拠・データソースは?
それでは、なぜ平均年収が1700万円といった情報が存在しているのでしょうか。
いくつかの記事で見受けられたのは、「給与」だけでなく「退職手当・厚生費」を含めて考えているというものでした。
では、試しにその考え方で計算してみましょう。
このように、「退職手当・厚生費」も含めて考えると、職員一人あたりの費用は約1700万円という数字がでてきました(平成29年度実績)。
しかし、この算定方法で出された数値を「NHKの平均年収」というのは正しくありません。なぜかというと、「退職手当」と「厚生費」は一般的に「年収」には含まれないからです。
退職手当というのは、「役員退任手当及び職員の退職給付費用」です。つまり、退職金の積み立てのようなものと考えてください。
厚生費というのは、「社会保険料の事業主負担分及び職員の福利厚生に要する経費」です。つまり、職員の社会保険料(健康保険や雇用保険など)のうちNHKが負担している分ということです。
これらは個人の給与明細には記載されていませんし、源泉徴収票の所得金額にも含まれません。そのため、一般的に「年収」や「給料」という場合の金額には含まれないものです。
このように、NHK職員の「平均年収(平均給与)」は1700万円は誤りだといえます。
NHK職員の「平均労務費(平均人件費)」が1700万円といえばある意味正しいかもしれませんが、他の会社の年収と比較するような文脈で使うのは適切とはいえません。
おわりに
このように、NHK職員の平均年収は約1100万円ということでした。
1700万円や1800万円という数字が嘘やデマであるとまでは言いませんが、誤解やミスリードを起こしかねないものと思いますのでご注意ください。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
ちなみに、上で出てきた「退職手当・厚生費」ってこんなに大きいの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。この理由は、難しめな会計の話(「未認識数理計算上の差異の償却」)が絡んできます。以下の記事で取り上げていますので、興味があればご覧ください。

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