はじめに
こんにちは。公認会計士の草津です。
前回の記事で、NHKはどのように会計処理を行っているかをまとめました。

今回はそのうち、放送法及び放送法施行規則で定められた、NHK特有の会計処理について見ていきたいと思います。
第3回は、「固定資産の減損会計」です。
固定資産の減損とは
そもそも、固定資産の減損とは一体何なのでしょうか。
簡単に言うと、「企業が持っている土地や建物、機械などの価値が落ちた時に、損失を認識しなければいけない」という会計の用語です。
例えば、5億円で買ってきた土地が1億円の価値になってしまった場合、貸借対照表(B/S)上の土地の金額を1億円に修正して、損益計算書(P/L)で差額の4億円を損失として処理します。
ただし、ここでいう「価値」とは、外部に売ったときの値段だけでなく、内部で使用することによる価値も含まれています。
例えば、3億円で買ってきた製造装置が、売却すると1億円の価値(正味売却価額)にしかならなかったとしても、その装置を使って3億円以上お金を稼ぐことができる(使用価値)のであれば、その装置は3億円以上の価値があるということができます。そのため、このような場合には固定資産の減損は行わなくていいことになります。
このように、土地や建物、機械などを購入したが、販売製品が売れなくなったなどの理由により、投資資金を回収できなくなった場合に、減損が行われることになります。
最近でいうと、経営不振だった東芝やシャープなどが多額の減損損失を計上していました。
固定資産の減損に係るNHKの会計基準
さて、この固定資産の減損ですが、放送法及び放送法施行規則ではどのように会計処理が定められているのでしょうか。
一般的の株式会社は、企業会計審議会より公表されている「固定資産の減損に係る会計基準」を適用して、減損の会計処理を行うことになります。
一方で、NHKの財務諸表を見ると、以下のような記載がされています。
2.6 固定資産の減損会計
固定資産の減損会計については、放送法施行規則の規定により、「固定資産の減損に係る独立行政法人会計基準」によっております。
出典:日本放送協会平成30年度財務諸表 P32
以前の記事でも書きましたが、NHKは原則として一般的な事業会社と同じ会計基準に従うのですが、放送法および放送法施行規則に定めがある場合はその基準に従うこととされています。
放送法施行規則では以下のように書かれていますので、これをもって、「固定資産の減損に係る独立行政法人会計基準」を適用していることのようです。
(財産目録)
備考2 固定資産の減損損失の計上は、独立行政法人における会計処理の例による(別表第四号について同じ。)。
出典:放送法施行規則別表三
つまり、固定資産の減損に関しては、NHKは独立行政法人について定められた基準に従って会計処理を行っているということになります。
一般の減損会計基準との違い
それでは、独立行政法人と一般の株式会社の会計基準の違いはどこにあるのでしょうか。
最新の独立行政法人会計基準はこちらにありますが、独立行政法人の固定資産の減損に関する基本的な考え方は、以下のように書かれています。
企業会計における「固定資産の減損に係る会計基準」では、収益性の低下等により投資額の回収が見込めなくなった固定資産について、その帳簿価額を回収可能価額まで減額し、損失を将来に繰り延べないために行われる会計処理であるとされている。しかしながら、公共的な性格を有し、利益の獲得を本来の目的とはしない独立行政法人について、固定資産への投資額の回収可能性によって減損を認識する企業会計の目的をそのまま適用することは困難であると考える。
(中略)
減損の認識を行うかどうかの判定は、固定資産の全部又は一部について使用が想定されているかどうか等により判断することとした。そして、減損を認識すべきであると判定された固定資産については、その帳簿価額を回収可能サービス価額(正味売却価額と使用価値相当額のいずれか高い額)まで減額するとともに、当該減損が、独立行政法人が中期計画等で想定した業務運営を行わなかったことにより生じたものである場合には、減損損失として当期の臨時損失とすることとし、中期計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じたものであるときは、損益計算には含めないこととした。
出典:固定資産の減損に係る独立行政法人会計基準の設定及び独立行政法人会計基準の改訂について
つまり、独立行政法人は利益の獲得を前提としていないので、投資の回収ができるかどうかという点で減損を行うことは不適当であるということになります。
この結果、主に以下の2点について、企業会計と独立行政法人会計で違いが生じています。
①企業会計では投資額を回収できない固定資産を減損するのに対し、独立行政法人会計では当初の目的によって使用されていない固定資産について減損を行う
②企業会計では減損損失を全て損益計算書で計上するのに対し、独立行政法人会計では減損損失を損益計算ではなく資本の増減として取り扱う場合がある(注記計画等で想定した業務運営を行ったにもかかわらず生じた場合)
NHKが異なる会計基準を適用する理由
このように、企業会計とは異なる会計基準が設定されている独立行政法人ですが、NHKはなぜ独立行政法人と同様の会計基準を適用しているのでしょうか。
放送法施行規則の改訂された経緯は確認できませんでしたので、ここからは想像となりますが、NHKも利益の獲得を目的とした会社ではないことから、独立行政法人と同様の会計基準によることが望ましいと判断されたのではないかと考えられます。
「固定資産の減損に係る会計基準」が適用されたのは平成17年度からで、それに伴って「固定資産の減損に係る独立行政法人の会計基準」が平成18年度に適用となっています。そしてNHKでは、平成19年度から独立行政法人の会計基準によっている旨記載されています。このことからも、基準が改訂されて監査法人と協議した結果、このような会計基準の適用になったのではないかと推測しています。
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