NHK特有の会計処理第1回ー東京オリンピックの引当金とは?

NHKの会計の解説
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はじめに

こんにちは。公認会計士の草津です。

前回の記事で、NHKはどのように会計処理を行っているかをまとめました。

今回はそのうち、放送法及び放送法施行規則で定められた、NHK特有の会計処理について見ていきたいと思います。第1回は、来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックに関連する会計処理を取り上げています。

東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金

残高の推移

NHKの貸借対照表を見ると、「東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金」という負債項目があるのをご存じでしょうか。

以下の通り平成27年度から30億円ずつ増加しており、平成30年度末時点で120億円計上されています。

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出典:日本放送協会平成26年度~平成30年度財務諸表

引当金とは?

引当金というのは、将来に費用が発生することが見込まれる場合に、当期に帰属する金額を費用計上し、対応する残高を負債に計上するものです。

例としては賞与引当金があります。例えば、会社の決算月が3月、賞与の計算期間が1月から6月の場合、賞与の金額はまだ確定していませんが、1月から3月までに従業員が働いた分の賞与は当期の費用として計上すべきと考えます。したがって、その分の費用を当期の費用として計上し、対応する残高を賞与引当金として計上します。

企業会計原則注解18では引当金の計上要件として、以下の4つが挙げられています。

  1. 将来の特定の費用又は損失であること
  2. その発生又は損失が当期以前の事象に起因して発生するものであること
  3. 発生の可能性が高いこと
  4. その金額を合理的に見積もることができること

ここで大事なのは「2.その発生又は損失が当期以前の事象に起因して発生するものであること」という項目です。例えば、「翌期に大規模なCMキャンペーンをやる予定だから、広告料の支払いに備えて引当金を積んでおきたい」と思ったとしても、CMが放映されるのは翌期なので当期の費用にすることはできません。

また、会計基準では引当金の種類を限定しておらず、上記の要件を満たした場合には計上することになりますので、企業によって特有の引当金を計上している例もあります。

どのような引当金?

では、「東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金」とは一体どのようなものなのでしょうか。実はこれは一般的な引当金とは異なり、放送法で特別に認められた引当金のようです。

財務諸表の「2.財務諸表の作成に関する重要な会計方針」という箇所には以下のように記載されています。

令和2年に開催される東京オリンピック競技大会及び東京パラリンピック競技大会に関する放送に要する費用(放送権料を除く。)の支払いに備えるため、平成27年度より放送実施までの期間に放送に要する費用の合理的見積額を計上しております。なお、当該科目は、「企業会計原則注解注18」における引当金とは異なり、放送法施行規則の規定により特別に認められた引当金であります。

出典:平成30年度財務諸表

あえて「なお、当該科目は、「企業会計原則注解注18」における引当金とは異なり、放送法施行規則の規定により特別に認められた引当金であります。」という記載をしていることから、これは通常の引当金の要件を満たさないことが推測できます。

おそらく、「東京オリンピック・パラリンピックを放送する際に150億円の費用が発生することが見込まれるので、平成27年度から5年間で30億円ずつ積み立てている」という性質なのではないかと思います。

このような場合通常の会計基準では、翌期以降発生する費用なので引当計上できませんが、NHKは費用と収益が対応しない(多額の費用を支払って放送しても、受信料収入が増えるわけではない)ことから、費用を平準化したい意図からこのような引当金を設定しているものと思われます。

会計処理の方法とは?

このように、NHK特有の引当金である「東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金」ですが、放送法施行規則ではどのように会計処理が定められているのでしょうか。

実は、放送法施行規則でこの引当金について書かれている箇所は、以下の部分だけのようです。

備考1の2 この表において、「東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金」とは平成三十二年に開催される東京オリンピック競技大会及び東京パラリンピック競技大会に関する放送に要する費用(放送権料を除く。)のための引当金をいう。

出典:放送法施行規則別表三(附則適用後)

一般的な会計基準の例外として会計処理をするものですので、本来であれば計上方法(例えば、「発生すると見込まれる額を5年で均等に按分して費用として計上する」など)を規定すべきなのですが、単なる引当金の説明に留まっています。これでは、協会が根拠なく計上したい額を計上していたとしても、監査法人は何も指摘できないでしょう。

なお、放送法施行規則の該当部分は、総務省の平成27年1月9日「放送法施行規則の一部を改正する省令(平成27年総務省令第1号)」で改正されています。(参考リンク:総務省トップ>所管法令等>新規制定・改正法令・告示 省令

e-Govのパブリックコメントは出てこず(おそらく行政手続法第4条4の四の適用除外に該当するものと思われます)、改正時の議論等の文書はなさそうです。 

おわりに

少し長くなりましたが、「東京オリンピック・パラリンピック関連費用引当金」については以上です。

いち会計士としては、会計基準がこのように不明瞭な形で規定されているのは腑に落ちないところです。ただ、協会全体の規模から言えばそこまで大きな金額でもないですし、もともと営利法人でもないので費用の期間帰属に関してはそこまで目くじらを立てなくてもいいかとも思います。

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