はじめに
今回はNHKの退職金に関する記事です。
給料が高いと言われているNHK職員ですが、退職金の金額も気になりますよね。
NHKウェブサイトの「よくある質問集」には以下のように書かれています。
退職手当の額は、退職事由、勤続年数、退職時の給与額により決まります。(大卒、勤続35年以上、60年定年退職時の一般的な退職手当は2,019万円です。)
勤続35年で2千万円というと、一流会社とすればそこまで高くないように思われます。
しかし、財務値を分析すると、意外な事実が分かってきました。
退職給付債務のテレビ局6社比較
退職給付債務とは、一定期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものをいいます。
少し正確ではありませんが、従業員に支払う予定の退職金の合計額とイメージして頂けるといいかと思います。
貸借対照表には「退職給付に係る負債」という科目がありますが、この科目は退職給付債務から年金資産を控除したもので、従業員に支払う予定の退職金のうち積み立てられていないものというイメージです。
財務値としては「退職給付に係る負債」というのがあるのですが、この残高というのは年金資産をたくさん積み立てていれば減りますし、逆に積み立てが少なければ増加します。
そこで、今回はNHKに民放5局を加えた6社の退職給付債務の金額(平成30年度)を比較しました。
黄色い棒グラフは退職給付債務の残高を表したものですが、見ての通りNHKが約6,600億円と突出しており、二位のフジテレビと比較しても6倍近い差となっています。
青い線グラフは退職給付債務の残高を従業員数で割った金額です。こちらもNHKが一人あたり約6,400万円と群を抜いて高い状況となっています。
ただし、数字を見る上で以下の注意点があります。
- 退職給付債務にはすでに退職した人に対する給付予定額も含まれているので、一人当たり金額はあくまでも参考値である。
- 退職給付債務は確定給付制度のみの残高であり、確定拠出制度の残高は含まれていない。
- 退職給付債務の金額は、勤続年数など将来の一定の予想をもとに見積もられているため、現時点で全員が退職した場合に払わなければいけない金額とは異なる。
- 勤続年数1年の従業員に対しては1年分の残高のみが計上されているため、定年退職時にもらえる金額を表しているわけではない。
それにしても、従業員1万人の会社で残高が6,600億円(単純平均で一人当たり6400万円)というのは、異常としか言いようがありません。
退職給付費用の他社比較
退職給付費用とは、退職給付会計基準によって、退職給付に関する費用として計上されるものをいい、主な構成要素としては、勤務費用、利息費用、期待運用収益、過去勤務債務の費用処理額、数理計算上の差異の費用処理額、会計基準変更時差異の費用処理額があります。
分かりやすく言うと、その年に増えた退職金の金額というイメージです。つまり、その年に働いてくれた従業員には勤務年数が伸びた分だけ退職金が増えるので、その額をその年の費用にしようという考え方です。
こちらも、NHKに民放5社を加えた6社の退職給付費用(平成30年度)を比較しました。
棒グラフは退職給付費用の発生額を表したものです。民放最高額がフジテレビの約50億円なのに対して、NHKは約250億円と、その差は約5倍もあります。
ただし、NHKには平成30年度末において約1,600億円と多額の「未認識数理計算上の差異」があり、退職給付費用250億円のうちおよそ200億円が未認識数理計算上の差異の費用処理額となっています。
こちらの説明は専門的になるので割愛しますが、過去に退職給付を見積もった時から前提条件が変わった場合に、過不足分を数年間で調整するために発生する費用です。そのため、当期に働いた従業員に対する費用とは性質が異なります。
上記を除いた退職給付費用の発生額は棒グラフの緑色の部分であり、一人あたり退職給付費用の線グラフを見ても、他社と比較して高すぎるということはないようです。
NHKの未認識数理計算上の差異に関連して以下の記事も書いてますので、ご興味がある方は御覧ください。

まとめ
退職給付に関連する費用の年間計上額は、他社と比べて若干高い程度。しかし、退職給付に関連する債務残高は、他社と比べて異常な水準となっている。
冒頭の一般的なモデルの2,019万円が正しいとすれば、考えられる理由としては、退職後の年金受給者が相当な人数に膨らんでいる、一般以上の水準が極めて高い、過去の給付基準が異常に高かった、などでしょうか。
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