はじめに
今回は少し専門的な話になります。
論点は、「NHKの連結貸借対照表上で未認識数理差異等がオンバランスされていないのは、関連する法令に準拠して適正なのか」という会計的な論点です。
仮に、現在の表示方法が適切でない場合、およそ1,300億円と表示されている退職給付に係る負債が、およそ3,000億円に大きく膨らむ可能性があります。
NHKの連結財務諸表
NHKは連結財務諸表を作成し、以下のウェブサイト上で公表しています。
この連結財務諸表はどのような会計基準で作成されているかについては、「3.連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に以下のように記載されています。
日本放送協会(以下、「協会」という。)の連結会計については、放送法及び放送法施行規則の定めるところにより、これに定めのないものについては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っております。
また、連結財務諸表の様式は、放送法施行規則に定める書式に準じております。なお、放送法及び放送法施行規則の定めによるものについては、連結財務諸表にその旨を明示しております。
つまり、連結財務諸表に明示がない場合には、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っているということのようです。
退職給付に関する会計基準
会計基準では、社員の退職金などの「一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付」を退職給付と呼んでいます。
この退職給付については、「退職給付に関する会計基準」で会計処理や表示方法を定めています。
この「退職給付に関する会計基準」は平成24年改正により、連結財務諸表上での表示方法が変更になっています。具体的には、従来は負債に計上していなかった「未認識数理計算上の差異等」をオンバランスし、負債として認識することになりました。
しかし、NHKの最新の連結財務諸表を見ると、当該改正点が適用されていないようです。「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従って連結財務諸表を作成した場合、「退職給付に関する会計基準」を適用しなければいけないと考えられますが、適用しない根拠があるということなのでしょうか。
どのような影響があるのか
それでは、仮にこの会計基準を適用した場合には、どのような影響があるのでしょうか。
平成30年度の連結財務諸表・注記「9.退職給付に関する事項」では、期末の未認識数理計算上の差異の額が1,668億円(不利差異)との記載があります。
仮に「退職給付に関する会計基準」に従って連結貸借対照表上の表示を行った場合、以下の図の通り、退職給付に係る負債は1,668億円増加して3,047億円、純資産が1,668億円減少して6,978億円となります。
(平成30年度 NHK連結財務諸表の退職給付関連勘定(単位:百万円))
未認識数理計算上の差異の金額は注記により確認できるので、退職給付に係る負債が潜在的には3,047億円存在するということは、現在の連結財務諸表からも読み取ることはできます。
しかし、連結貸借対照表上で退職給付引当金の金額が2倍以上となり、純資産の金額が約20%減少するというのは、財務諸表利用者にとっては非常に大きなインパクトであると言えます。
おわりに
連結財務諸表は監査法人による無限定適正意見が出されているので、NHKと監査法人との間で何らかの整理はされているものと思われます。しかし、調べた限りでは、NHKがオンバランス処理をする必要がないといえる根拠は確認できませんでした。
もし、根拠をご存じの方がいましたら、コメント等で教えて頂ければ幸いです。
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