はじめに
こんにちは、草津会計士blogです。
衛星契約が開始した平成元年(今からおよそ30年前)の国会の議論の中に、当時のNHKの衛星放送の位置づけがよくわかる討論部分がありましたので、今回ご紹介します。
阿部未喜男議員の質問に対し、NHKの島圭次副会長が回答しています。これを見ると、NHKが衛星放送をどのようなものとして位置付けていたかがよく分かり、今の状況のどこに問題があるのかが分かってきました。
衛星契約開始時の国会討論
○阿部(未)委員
恐らく今NHK幹部の皆さん、郵政省も含めて、これからの時代は衛星放送の時代だ、したがって二千円料金を設定すれば、かつて白黒がカラーに変わったときのように、これからどんどん衛星放送の受信者がふえていくだろう、そういう計算のもとに今の見通しが成り立っておる、元年分の予算はその始まりである、私はこう見ておるのです。したがって、五年先には衛星放送と地上放送を区別しながら経理していくと言うけれども、五年先にはむしろ衛星放送の方から地上波の方に金が入ってくるような、そういう夢を持って今絵をかいておられると私は見ざるを得ないのです。
しかし、果たしてそうなるであろうか。私はまず、新しい衛星放送の受信契約が仮に百三十万、こう言っていますけれども、そのうちの半数近くはCATVでしょう。CATVがそれだけあって、あと個々の契約がそんなにどんどん伸びていくかどうか非常に疑問です。しかも、仮に衛星放送を受信する人がふえたとしても、契約をしてくれるかどうか、金を払うてくれるかどうかですよ。既に地上波の人は地上波の料金を払っておるのですよ。その上に衛星放送の料金を九百円ください、二千円にしますと言って、はい、そうですがといって素直に二千円、衛星放送を受信する方方がどんどん金を払ってくれるだろうか。極めて危険であると私は思うのです。だから、今計画をしておるように、五年先には五百万世帯だ、七百万世帯だというふうな夢を持ってこれを進めていくならば大変なことになってくる。
そこで、今NHKでは地上波は地上波、衛星は衛星で区分して、経理を明確に分けていくのだ、地上波に迷惑はかけません、こう言っておるのです。しかし、衛星放送をやったために膨大な赤字が出たときに、だれがそれならば地上波に迷惑をかけぬでどういう処理をしようと考えておられるのですか。ここが私、非常に疑問なのです。どういうふうにお考えですか。○島参考人
御指摘のように、今NHKは大変な状態になってきておりまして、私はまさに衛星放送とその後に続くハイビジョンにNHKの命運をかけておるわけでございます。したがって、私としては、現在先生何と言われようとも、我々は衛星放送を必ず成功させるべく組織の全力を挙げてこれに突入する決意、これは一年半前に独自サービスをしたときに、私どもはそういう経営としての決意を固めている次第で、それが困難であり、無理であるということを今言われましても、私どもとしては石にかじりついてもそれをやり遂げるということを申し上げるほかないということを申し上げたいと思います。
○阿部(未)委員
NHK経営の決意として、島副会長、あなたのおっしゃることを、その決意を私は疑いません。しかし、あなたも、衛星ではないが寿命がある。いつまで副会長をやっているか、私わからぬけれども寿命があることは間違いない。NHK全体の体制がよしんば副会長と一心同体で進むように決意をしておるとしても、衛星放送というものの性格から非常に厳しい局面を迎えるであろう、そのときにいやでも応でも何とかしてもらわなければならないのは、視聴者の皆さんに頭を下げる以外にないはずですよ。それならばこういう計画は事前に委員会に諮って、視聴者を代表する国会の議論を経た上でやるべきであって、あなたの一存でいきなりある日突然百四十億の球が上がっていったのでは視聴者はたまりませんよ。決意のほどはわかります。決意はわかるけれども、それは非常に危険であるということを私は予言せざるを得ないのであります。
衆議院逓信委員会第114回国会 平成1年3月23日 第2号
したがって、これまではあなたのやったことだからしようがないけれども、これからはちゃんとこの種の問題は決議機関、委員会に事前に諮って、そして国民が一緒に責任を負える、視聴者がそれなら一緒に責任を負ってやってみよう、そういう状態のもとで推し進められるべき計画であって、NHKの経営だけが勝手に決めて勝手に走っていくような計画ではないということを私は最後に申し上げまして、何かお言葉があれば大臣並びに会長から答弁を聞いて、終わりたいと思います。
おわりに
このように、当初NHKとしては、白黒テレビからカラーテレビに変わった時のように、地上放送から衛星放送に変わるだろうという予測を立て、経営計画を立てていたのだと思います。
そして実際どうなっているかというと、衛星契約数は平成元年の130万件から増え続け、平成30年度末には2,162万件にまで増えています。これはNHKの契約者のうちの52%に上ります。その結果、衛星付加受信料はおよそ2000億と、受信料全体のおよそ3分の1を占めるまでになりました。
しかし、実際の衛星放送は当初NHKが思い描いていたものになっているでしょうか?
現実には30年経った今でも放送の中心は地上放送であり、衛星放送は補完的な位置づけに留まっています。これは明らかに当初の経営戦略の失敗だったと言えるわけです。本来であればNHKは素直に失敗を認め、衛星事業を縮小するべきでした。
しかし、NHKは放送法で定められた契約の義務を盾に、集合住宅へのBSアンテナへの設置やテレビへのBSチューナーの標準搭載などを強引に押し進め、無理やり衛星契約数を増やしてきました。さらに、契約数の増加によって増えた受信料を国民に還元することなく、コストを増やしていきました。その結果、現在のNHKは取り返しのつかないところまで膨張してしまっているのだと思います。
NHKのBS放送の週間接触者(1週間に5分以上視聴した人)の割合はおよそ18%に留まっています。この数字を見れば、多くの人が望まずに、衛星放送を支えるためのお金を払わされているかが分かります。 衛星放送をスクランブル化するだけでもNHKにとっては大きな犠牲を払う必要があることは確かですが、このままで国民の理解を得られるとも思えません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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